■園や学校の対応は
こうした現状を、園や学校の先生方はどのように受け止めているのでしょうか。
ある保育園の園長は「我が子に満足できなくて、厳しくしつけていたり、子どもがかわいくないと言うお母さんが増えています。何度も話し合うようにしてはいますが、複雑な家庭も多く、親がすぐに変わるのは厳しい面も。せめて園ではその子を受け止め、認めてあげるようにしています」とおっしゃっていました。
また、ある小学校の先生は「低学年では先生に甘えて、自分の方を見て欲しくて先生を『お母さん』と呼んだり、高学年では目立つ格好や行動をして、注目してもらおうとする子がいます。親に話を充分に聞いてもらっていないのでは、と感じることがあります」と打ち明けてくださいました。
そのような子どもに対して園では、先生が抱っこをしたりおんぶしたり、手をつないだりのスキンシップを充分にする。思いきり甘えさせて、かわいがる。その子を受容し、失敗してもいいんだなと感じられるような保育を心がけていると言います。また、親に対しては、ねぎらいの言葉をかけたり背中を撫でたりして、緊張をほぐす。対話を積み重ねて、親自身も受け容れられていると感じてもらえるように努めているそうです。
小学校では、その子の要求をじっくり聞いて不安を解消し、安心させる。縦割りで面倒を見たり見られたりする体験をさせるなど、学校全体で取り組む。その子の親にわかってもらうだけでなく、クラスの親たちに様子を話したり、通信を発行しながら理解や協力を求めたり、親同士をつなげるなどの対応をしているとのことでした。
●なぜ親に甘えられないのか
いくつかの気になる子の親子関係を詳しく伺ってみると、親にわがままが言えなかったり、安心して自分の欠点や弱点が出せない。ありのままの自分でいられず、家庭では安らげていないようでした。
そうした子たちに共通するのは、親の前ではいい子で、いないところで友達に乱暴したり、いじめたり、陰で意地悪をしたりしていることです。また、わざと大人の嫌がることをする反面、大人にべったりと甘えたりするなど、ゆがんだ形で愛情を確認しないといられない子も増えています。親に求められない欲求を他で満たしているのでしょうか。
子どもが親に気を遣い、自分を出せない家庭では、親が過剰な期待や要求をしています。子どもが甘えられないのは、ありのままの自分と、親が望むような姿との差がありすぎるためではないでしょうか。
●そのままでいいと受け容れる
精神科医の佐々木正美先生にお話を伺ってみました。
「保育園や幼稚園で、先生の関心をひとりじめしようとする子が増えていますね。親の代わりを求めて、自分の方だけを向いてもらいたいと思っているのです。そういう子は、先生の一番嫌がることをわざとやります。いわゆる注意獲得行動ですね。"こっち見て行動"です。小学校に入っても、担任の先生と一対一の関係を強く求める子が、どんどん増えていると聞きます。
そういう子たちには、こちらからして欲しいことを伝える前に、やらなければならないことがあるのです。それは "どうして欲しいの
?" と聞いてあげることです。してほしいことを充分聞いてあげてから、こちらの希望を伝えなければ、子どもには何も伝わらないのです。ありのままの自分が受け容れられ、認められる…いわゆる母性性が与えられて初めて、子どもにしつけができます。"そのままでいいんだよ"といってあげる母性性が先で、その後に社会性を教えるなど父性的なものがくる。この順番があることを、ぜひとも心にとめていただきたいと思います」。
●親に甘えられるということ
家庭ではつい「甘やかさずに、きちんとしつけをしなければ」という思いから、わが子にあれこれと注文をつけがちですね。しかし、しつけと言う大義名分のもとに多くのことを要求するあまり、子どもの望むことに聞く耳をもたず、子どもの気持ちにふたをしてしまってはいないでしょうか。そして、いちばんありのままの自分でいられて、甘えられるはずの存在である親の前で、緊張して気を遣うような子にさせてはいないでしょうか。
親の前で甘えられる子は、小さなたくさんの安心を心に刻みながら、少しずつ自分に自信を貯えているのでしょう。子どもが親に甘えられず先生に甘えていたり、家ではいい子なのに外ではわがまま放題の場合、その子は「こっちを見て」「自分を愛して」と言うサインを一生懸命出しているのだと、気づいてあげたいものです。その場合に親は、子どもの気持ちを充分受け容れてあげるところへもう一度立ち戻り、一対一の基本的な関係をしっかりと結び直すことが大切でしょう。
当たり前のように思える子どもの甘えですが、子どもが親の前でありのままでいられること、親に甘えられることの意味、本質を、もう一度考え直してみたいものですね。
子育て協会発行 「コミュニケーション」31号より
Copyright(C)1997-2007
All right reserved
